東京高等裁判所 昭和45年(行コ)34号 判決
長野県上田市愛宕町三九八七の五
控訴人
羽毛田実
右訴訟代理人弁護士
富森啓児
加藤洪太郎
長野県上田市
被控訴人
上田税務署長
高橋彌三郎
右指定代理人
光広龍夫
中川精二
神林輝夫
田村広次
佐々木重音
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
(申立)
控訴人
「1 原判決を取消す。
2 被控訴人が、控訴人に対し、昭和三八年一〇月五日付で、控訴人の昭和三七年度分の所得税額を四万〇、二五〇円としてなした決定処分および無申告加算税額を四、〇〇〇円としてなした賦課決定処分をいずれも取消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求める。
被控訴人 主文第一項同旨の判決を求める。
(主張および証拠)
当事者双方の主張および証拠関係は、左記のほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 控訴人
(一) 別紙記載のとおり主張する。
(二) 甲第二一号証を提出し、
当審証人大島喜造の証言を援用する。
2 被控訴人
(一) 控訴人の公権力濫用の主張事実は否認する。
(二) 甲第二一号証は成立および原本の存在を認める。
3 その他
原判決三〇枚目表末行目の「一五、〇〇〇」は「一三、〇〇〇」の誤りと認められるから、右のとおり訂正する。
理由
一、本件について当裁判所のなす事実の認定およびこれに伴う判断は、左記のほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決一六枚目表六行目の「同年」を「昭和三七年」と、同判決一九枚目表九行目の「第三号証」を「第三〇号証」と各あらため、
同判決二七枚目裏一二行目の次にあらたに行をおこして、
「3 なお控訴人がなす別紙記載の公権力濫用の主張事実-控訴人は本件各処分は、根拠なく、しかも根拠のないことを承知の上でなされたもので、被控訴人は控訴人に対して右各処分をなすことをのみ目的としてこれをなしたものである、などという-も当審証人大島喜造の証言その他本件に顕われた全資料に徴しても、これを肯認し難く、却つて上記12での認定事実に右大島の証言および弁論の全趣旨をあわせると、さような主張事実は真実に副わないものであることが認められる。よつて、右主張も採用することはできない。」を加える。
同判決二八枚目表五行目の「九一条」の後に「(但し改正前のもの)」を加える。
二、そうすると控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので、これを棄却することとし、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 三和田大士 裁判官 栗山忍)
控訴人の主張
第一、根拠なく行なわれた本件更正決定
一、被控訴人は昭和三八年一〇月五日、控訴人の昭和三七年分営業所得が「金四四四、四七八円存する」旨の更正決定を行つた。
ところが、右決定は何らの根拠もなく行なわれたものである。すなわち、被控訴人が控訴人の同年分の営業所得の実態を調査したのは、右更正決定の時より遅れること二年後の昭和四〇年九月一六日になつてからのことである(乙第一号証)。
二、こうした事実は本件審理の過程で全く明らかになつている。蓋し、被控訴人は本件訴が提起されてから後になつて、控訴人の昭和三七年分営業所得を前記更正決定とは異る「金六九四、三〇七円」であると主張し始めたのである(昭和四一年一月一六日付被告準備書面)。
そして、右主張の根拠が被控訴人による控訴人の銀行取引調査にあることも又、明らかにされた。すなわち、被控訴人は昭和四一年三月一六日付準備書面で再び控訴人の昭和三七年分営業所得が「金七一二、五八一円である」と再びその主張を転変させたが、その際、「従来は」(昭和四一年一月二六日準備書面提出時を指す)「原告の取引銀行の調査の資料のみに基いていたものがあつたため」(被控訴人昭和四一年三月一六日付準備書面冒頭の記載)として、このことを自白した。ところで、被控訴人の言うところの「銀行調査」なるものは、その結果を記載した乙第一号証によれば、昭和四〇年九月一六日になされたことが明らかである。
三、従つて、被控訴人が本件更正決定を行つた時点では、同人は銀行調査資料すら持ち合わせていなかつたに違いないのである。そうでなければ、本件更正決定に於ても控訴人の営業所得は「金六九四、三〇七円である」とされた筈であるからである。被控訴人は何らの根拠もなく本件更正決定を断行し、その後、控訴人から本件訴を提起されるや、あわててその根拠を得るべく銀行調査を行つたに違いないのである。
第二、全く異例の『根拠なし更正決定』
一、証人大島喜造は次の通り当審で証言した。要旨は次の通り。「更正決定を行う際には調査資料を根拠とする。そしてその資料は第一次的には取引先調査、第二次的には取引銀行調査、第三次的にはこうした調査が出来ない場合に始めて推計を行う。更正決定は常にこうした方法で行うべきである」と言うのである。
二、従つて、本件の場合は行うべき取引先調査も銀行調査も行なわず、突然に推計を行つた全く異例のものであるとしか言うことが出来ないのである。本件訴が提起されてから、被控訴人があわてて銀行調査並びに取引先調査を行なわねばならなかつたことからも、この異例性が裏付けられているものである。
第三、公権力の濫用
一、以上により、本件更正決定が、根拠もなく、又根拠のないことを承知の上でなされた事が明白である。被控訴人は控訴人に対して更正決定をかけることをのみ目的としてこれを行つたに違いないのである。
控訴人は当初より本件更正決定が、同人が民主商工会々員であり、又集団自主申告を行つたことに対する報復措置であるとして公権力の濫用の主張をし続けてきたが、以上によりこの事実は一層明白となつたと言わなければならない。原判決はこうした本件更正決定の異常性に何ら分析・評価を加えず、結局事実認定を誤つたものと言う外ない。破棄されるべきである。
(なお、上記第一、第二、は第三、の主張を裏付ける事情である。)